大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

津地方裁判所 平成元年(行ウ)7号 判決

原告

磯村清則(X)

右訴訟代理人弁護士

長縄薫

初鹿野正

被告

三重県北勢県民局四日市市土木事務所長(Y) 大庭啓司

右指定代理人

佐野武人 外一一名

"

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  認定した事実

当事者間に争いのない事実及び〔証拠略〕を総合すると、以下の事実が認められる。

1  本件処分及び審査請求の経緯

(一)  本件法敷は、二級河川である三滝州の左岸堤防の法敷(河川管理施設の敷地)内にあり、河川区域内に存在する。

(二)  原告は、同人が経営する会社の独身寮及び家族寮を建設するために、昭和四〇年ころ本件土地を取得し、本件土地から本件堤防天端通路への取付け通路として利用する目的で、昭和四〇年五月以降本件法敷について河川法二四条に基づき被告から占用許可を受け、およそ五年ごとに更新許可を受けてきた。また、昭和四〇年六月には寮二棟の建築確認も受けた。

なお、本件堤防天端通路は河川管理用の通路であり、道路法上の道路ではない。また、本件土地の南側及び東側には幅員約二メートルの農道があり、この農道を経て本件土地は公道に通じている。

(三)  しかし、原告は電話回線の不足等のため寮の建設を断念し、本件土地に建物を建てられないまま経過してきた。そして、原告は昭和五五年ころ、レンタルハウスの建築を計画し、昭和五七年五月二四日に被告から本件土地が既存宅地であることの確認を得、昭和六〇年一二月六日に四日市市建築主事に対し建築確認の申請を行なったが、右申請に対し同月二六日付で不適合処分がなされたため、原告はこれを不服として審査請求を申立て、さらに津地方裁判所へ訴え(以下「別訴」という。)を提起した。

(四)  原告が昭和六三年二月二〇日付で本件法敷の占用更新許可申請を行なったところ、被告は同年三月一日付で「通路によって連絡する堤防天端は道路法による道路ではない」からとの理由でこれを却下し、右却下処分の通知書は同月三日原告に郵送された。

原告に対する従前の更新許可通知書には印刷された文書が用いられていたのに対し、本件不許可の通知書は手書きで作成されており、また、本件通知書には、処分に対する不服申立てについての教示の記載が全くなされていなかった。

(五)  そこで、原告は同年三月下旬ころ笹岡管理課長に、本件申請が却下された理由について尋ねたところ、笹岡管理課長は、「県下一斉に不許可の扱いをする。しかし、本件法敷は自由に通行できるし、占用料金もいらないからかえって良いではないか」と返答した。そのため、原告はそれなら自由に通行できる旨の但書を本件通知書に書き加えてほしい旨求めたが、笹岡管理課長は「上司と相談の上回答する」と答えて、記載の要求には応じなかった。

その後、原告は右回答を求めるため笹岡管理課長を何度か尋ねたが、不在等のため会うことができなかった。そして、笹岡管理課長は同年三月三一日付で退職し、それ以前も休み勝ちであったこともあって、原告が右回答を求めていたことは後任の井上管理課長に引き継がれなかった。

(六)  そして、原告は同年七月七日、四日市市建築主事を相手とする建築確認不適合処分取消請求事件(別訴)の期日において、相手方代理人から本件法敷の占用申請が却下されていることを指摘されたことから、被告に返答を求めたところ、翌日井上管理課長が原告方を訪れ、自由使用の但書は書けない旨回答した(その際、右の事件のことが話題に出たことは認められるが、原告による別訴の提起が本件却下処分の理由である旨井上管理課長が述べたとする原告の供述は、証人川上義元の証言等に照らしたやすく採用できない)。

(七)  そこで、原告は昭和六三年七月一四日、本件処分を不服として本件審査請求をなしたところ、審査庁である三重県知事は平成元年一一月一四日、審査請求期間を徒過していることを理由として、同審査請求を却下した。

2  周辺の土地所有者に対する占用許可の状況

三滝川左岸堤防の法面について、訴外石田及び清水が占用許可の更新を得ているが、石田については、本件堤防天端通路への通路を占用の目的にしているのではなく、市道高角四号線から住宅への進入路として堤防の法面部分を占用の目的としていること、また、清水については、原告と同様本件堤防天端通路への通路を占用の目的としているが、すでに同人の所有地には住宅が建設され、同人らが居住している。

二  以下、本件審査請求が審査請求期間を徒過した不適法な請求であったか否かについて検討する。

1  審査請求期間の徒過について

(一)  本件通知書(〔証拠略〕)が原告の本件申請に対する却下処分を内容とするものであることは、その記載された文言上明らかである。

ところで、本件法敷は河川区域内の土地(河川法六条一項二号)であるところ、河川法によれば、右区域内の土地は、河川管理施設とあいまって、雨水等の流路を形成し、洪水を疎通させ、洪水による被害を除去し又は軽減させるために必要なものであり、かつ、公共用物として本来一般公衆の自由な使用に供されるべきものであるから、私人によって占用することは原則として認められず、特定の者が一定期間排他的に使用を認められるためには河川管理者の許可を得る必要がある。すなわち、河川区域内の土地については、もともと一般公衆の自由な使用に供されているものであって、これを排他的に使用できるためには特別に許可を必要とするのである。したがって、占用許可の更新を拒絶する旨の本件処分がなされても、原告はもともと自由な使用が可能なものであるから、本件処分に付加して自由使用の記載がされても、あるいはなされなくても、本件処分の法的効果に何ら影響を及ぼすものではない。

本件において、原告は本件法敷の自由使用かできる旨の但書の記載を求め、その回答を待っていたことは前記認定のとおりであるが、この原告の要求は右のとおり本件処分の変更を求めたものではないから、その点について回答が遅れていたとしても、本件処分の時期及び「処分があったことを知った日」を左右するものではない。したがって、原告が「処分があったことを知った日」は本件処分の通知書が原告に到達した昭和六三年三月三日であると認められる。

(二)  また、前記認定のとおり、原告は口頭で笹岡管理課長に対して、本件申請がなぜ不許可処分になったのかについて説明を求め、本件通知書に自由使用ができる旨の但書の記載を求めており、本件処分に不服がある旨を伝えていることが認められるが、行政不服審査法九条は、他の法律に口頭ですることができる旨の定めがある場合を除き、不服申立ては書面を提出して行なわなければならない旨規定し、河川法にも口頭による不服申立てを認める規定は存しないから、本件処分に対する不服申立ては書面によることが必要であったものである。そして原告は、後に書面による審査請求がなされたことをもってその瑕疵が追完された旨をも主張するが、そのような解釈は同条の趣旨に反し認められないことは明らかであるから、右の口頭による原告の不服の申し出は適法な不服申立てとは到底認められない。

(三)  次に、本件通知書には不服申立期間についての教示が欠けていることは原告主張のとおりである。しかし、行政不服審査法五八条は、行政庁が同法五七条の規定による教示をしなかった場合の救済として、処分をした行政庁に不服申立書を提出すればその時に正当な審査庁に不服申立てがされたものとみなし、その限度で不服申立期間の徒過を救済することとしているのであって、それ以上に不服申立期間の教示が欠ける場合に不服申立期間の進行を中止するという救済方法を採用したものと解することはできない(最高裁第一小昭和六一年六月一九日判決)。

(四)  したがって、本件審査請求は、行政不服審査法一四条一項本文に定める審査請求期間を徒過してなされたものであることが明らかである。

2  「やむをえない理由」が認められるか。

行政不服審査法一四条一項但書にいう「やむをえない理由]とは、一般人に通常期待される程度の注意をもってしても避けることのできない客観的な事由をいうものと解されるところ、本件においては、前記認定のとおり、本件通知書には不服申立てに関する教示が欠けていたこと、原告は自由使用の記載についての被告の回答を待っていたこと、原告は右記載を拒否されれば不服申立てを行なうつもりであったことが認められるが、前示のとおり、河川区域の自由使用についての但書記載の有無は本件処分の効果に変動を来さない事柄であって、客観的に審査請求期間の徒過が避けられない事由には到底該当しないし、また、不服申立てに関する教示が欠けていた点についても、そのことによって原告が審査請求期間を誤解していたのではなく、原告の内心において右回答を待っていたにすぎないのであるから、いずれの点においても審査請求期間を徒過するについて「やむをえない理由」があったと認めることは困難である。

3  期間徒過の主張は信義則に反するか。

原告は、被告が本件において期間徒過の主張をすることは信義則に反し許されない旨主張する。

しかしながら、本件処分の通知書に不服申立てに関する教示の記載がなされていなかったことは前記認定のとおりであるが、これは単に右通知書が手書きのものであったために遺漏したものと認められ、ことさらに原告の審査請求権の行使を妨害するためにその記載を欠いたとは到底認定できない。また、前記認定の経緯からすれば、被告が自由使用の但書記載をするか否かについての回答をことさらに遅らせた事情も認めがたいところである。

そして、本件においては、本件処分に先立って原告はレンタルハウスの建築を計画し建築確認の申請を行なっていることが認められるが、その計画が実現すれば、本件堤防天端通路における車両等の交通量は増加すると予測されるところ、本件堤防天端通路は道路法上の道路ではないため道路管理者が存在せず、堤防が損傷した場合の修繕等に遺漏か生じ、河川堤防管理上支障が生ずることが予想される。加えて、前記認定のとおり、原告は昭和四〇年五月以降本件法敷について占用許可を受けてきたが、昭和四〇年当時に計画していた独身寮等の建築は実際にはなされず、本件処分の当時において本件土地は空き地のままの状態であったこと、これに対して、訴外石田の場合は法敷の占用許可がなされることによっても本件堤防天端通路を利用することにはならないので、河川管理上の支障はなく、また、訴外清水については同人所有地に既に住宅が建築されて同人らが居住しており、その更新を拒絶することによる損失が大きいことが考えられるのであり、いずれにしても原告とは土地の利用状況が異なることが認められる。このような事情に照らせば、本件処分は原告を恣意的に不平等に扱ったものとは認められず、許否の判断をするについてその裁量権を濫用しているということもできない。

右によれば、被告が原告の不服申立権の喪失を意図していたとは到底認められず、本件において被告か出訴期間の徒過を主張することが信義則に反するということはできない。原告の右主張も理由がない。

第三 結論

以上の次第で、本件審査請求は審査請求期間を徒過したもので適法な審査請求ということはできず、したがって、本件訴えは原告が本件処分を知った昭和六三年三月三日から三か月を経過した日である同年六月三日までに提訴されなければならないところ(行訴法一四条一項)、本訴が提起されたのは平成元年一二月一三日であるから、本件訴えは出訴期間を経過した不適法な訴えというべきである(仮に適法な訴えであったとしても、前記認定の事実関係によれば本件処分に違法はなく、原告の請求は棄却を免れない)。

よって、原告の本件訴えは不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 窪田季夫 裁判官 橋本勝利 舟橋恭子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!